偶然の出会い

生きていると不思議な経験をすることがある。

といっても、幽霊を見たとか予知夢を見たとかそういったオカルト的なものではない。

もっとずっと個人的なものである。

 

もう10年以上も前の話になるんだけど、とある場所で「偶然の出会い」というものを経験したことがある。

その日は夏の始まりを感じるような7月のある日で、仕事前にちょっとした空き時間があったので近所の古本屋に立ち寄った。

何か本を探していたとかではなく、あまりにも暑かったので「冷房のある空間に避難したかった」、ただそれだけの理由でその店に立ち寄ったのである。

当時は、中古のオンボロバイクに乗っていたのだけど、7月ともなるとエンジンから昇ってくる熱で、乗っているだけで汗だくになるのである。

そんなわけで、ちょっと涼むのにちょうど良い店がそこだったというだけの話だ。

店に入ると、古本屋独特のいい匂いが漂っており、程よく冷房も効いていたので、少しだけ立ち読みでもしていこうかなという気分になった。

陳列された棚を順に見ていると、大学時代によく読んでいた作家の本が並んでいるのが目に入った。

ああ、懐かしいなあと思いながら、その作家の作品の中でも繰り返し読んだ1冊を棚から取り出した。

あらすじを思い出しながらページを繰る。

そうだった、こういう話だったなあと、何となく当時のことをあれこれ思い出しながら15分ほどのその本を読んでいた。

汗もすっかり引いたので、そろそろ仕事に行かないとなと思い、本を元の場所に戻そうとした時、なぜか背表紙のところを開いてみたのである。

何か意図のあった行動ではなかったと記憶している。

本当に偶然に背表紙をパラっとめくってみただけなのである。

すると、そこに「1999.08.21」という数字が書かれていた。

その瞬間に鳥肌が立った。

その本は、俺が大学時代に買って読んだその本そのものだった。

本を読了したときに必ずその日付を背表紙に記録していたし、その字はどう見ても自分の字だった。

そして、その日付を記入した日のことも鮮明に思い出したのである。

小さな本棚が一杯になったのと、お酒を買う金が欲しかったのとで、その本を古本屋に売ったことも思い出した。

当時もお金とはあまり縁がなかったな、などと余計なことも。

 

これは何かの運命かもしれないなあと思い、その本を購入しようかとも思ったのだけど、いろいろ考えてそのままにしておくことにした。

もしかすると、またどこかで再会することもあるかもしれないし、そうなったらそうなったで面白いなあと考えたのである。

 

 

それから10年以上の時が流れて、別の古本屋にて・・・

 

となれば最高の展開なんだけど、さすがにそこまでドラマチックな話ではない。

ただ、先日、角田光代さんの本の中に、似たような話があって(それは本と何度も再会する話なんだけど)、それを読んだときにこの不思議な経験を思い出したのである。

 

自分がかつて所有していた本と再会したその古本屋は、いまはもうなくなってしまった。

その本自体もどこかにまだ存在しているのか、それとも、なくなってしまったのか、知る由もないけど、できれば、どこかにひっそりと存在していて欲しいなあと思ってみたりする。

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