最近、高校数学の記事を書いていますが、書き始めると溜めていたネタがポンポン出てくるものです。面倒だからと後回しにしているとすっかり忘れてしまうので、今回は忘れないうちに記事にしていこうと思います。
今日のネタも高校1年生内容ですが、これは、以前、高2の終わり頃に数学の成績が伸び悩んでいるということで他塾から転塾してきた生徒の話になります。
前に通っていた塾は、基本的に自習形式で分からないところを質問するというタイプの塾だったそうです。講師は医学部の学生を中心とした大学生のアルバイト講師がメインらしく、その生徒は比較的よく質問をしていたようです。まあ、高校生の塾としては、地方のスタンダードといった感じです。
本人も目標があって普段からしっかりと勉強をするタイプでした。決してサボって成績が下がりました、ということではありません。
実際に成績を見せてもらうと、高1のころは学年でも30番以内をキープし、模試の偏差値も68〜71という成績をとっていました。
ところが、高2の夏あたりから成績が下降し始めます。高2の夏の進研模試の偏差値が63ほどになり、さらに11月には59まで下落していました。定期テストでは何とか上位をキープできていましたが、模試ではかなり厳しい点数となっていました。
本人も焦りがあって、それまで以上に時間をかけて数学に取り組むようにしたものの、解けない問題が増えてきてちょっとしたパニックに陥ってしまったそうです。質問をもっていってつきっきりで教えてもらい「よし理解した!」となるのだけど、実際に模試になると解けない問題がどんどん増えていったそうです。そして、やってもやっても成績が上がらないということで、いろいろと調べていたら当塾のHPにたどり着いたそうです。
こういうケースを嫌というほど見てきた塾長は、早速いくつかの基本的な問題をやってもらうことにしました。
大体5〜6問ほどやってもらうと、その生徒の理解度が測れるのですが、今回はその中でもかなり初期に登場する問題を取り上げます。
高校1年生の1学期に登場する問題です。おそらく、その生徒も当時はしっかりと解けていたと想像します。
ところが、高2の終わり頃になると解けなくなっているという人が多いのです。
実際に、その時の生徒が作った答案が以下となります。
与えられた不等式は $x-4\leqq0$
したがって、$x\leqq 4$
$x\geqq 4$ より、解なし
・$x-4<0$ すなわち $x<4$ のとき
与えられた不等式は $-(x-4)\leqq0 \Longleftrightarrow -x+4\leqq0$
したがって、$x\geqq 4$
$x<4$ より、解なし
思い切り間違っているんですが、なかなかしっかりとした答案です。よく頑張っているなというのがわかります。
しかし、数学の理解度という点で見れば、かなり浅いところで止まっているなというのが見えてしまいます。
おそらく、問題集などにある
絶対値記号のの外し方 $|A|=\begin{cases}A&(A\geqq0)\\-A&(A<0)\end{cases}$
のようなものを頑張って覚えてきたんだろうなあと想像がつきました。
この考え方が間違っているわけではないので、前半の「$x\geqq 4$ より、解なし」以外は問題ありません。しかし、絶対値についてもっと理解している人は、こんな解き方にはならないはずなのです。
実際に本人に確認してみると、やはりサクシードを繰り返しやって解き方を覚えるということを推奨されていたそうです。質問の際も「こうやって解く」ということを教えてもらっていたようで、それを類題を通して覚えるといった感じの勉強をしてきたそうです。
この問題、ちゃんと理解している人であれば $x=4$ と何も計算せずに解が求められます。
絶対値については $|x-4|\geqq0$ が常に成り立っているので、実際には
$|x-4|\geqq0$ かつ $|x-4|\leqq0$
つまり、$|x-4|=0$ という問題と同じなのです。
さらに、その生徒が「$x\geqq 4$ より、解なし」とした部分も問題がありそうです。
なので上記のことを説明する前に聞いてみました。
連立不等式 $\begin{cases}x\leqq 0\\x\geqq0\end{cases}$ の解は?
やはり、「解なし」と答えます。なぜそう判断したのかを聞いてみると「不等式で表せない」という返答が返ってきました。
つまり、不等式において $x=4$ のように等号のみで表されるものは解になり得ない、というゆがんだ認識があるようでした。
数直線を使いながら、不等式の解とは何か、連立不等式の解とはどんなものかを説明していくと「あー、そういうことだったんだ」と深く納得できたようでした。
ということを話していました。
そこがクリアできたので、先ほどの「$|x-4|\geqq0$ かつ $|x-4|\leqq0$」のあたりの話を具体例を交えてあれこれ話をしたら、これまた深く納得してくれたようです。
本人も自分のやってきた勉強がほとんど数学の勉強になっていなかったことを認識したようで、それ以降は、質問の内容がガラリと変わりました。
もともと頑張っていた生徒なので「何を勉強すべきか」が見えくると、見違えるように伸びていきました。最終的に彼は旧帝大に進学したのですが、ここだけはレアケースで、実際には、高2の終わり頃にこういう事態に陥ると志望校には届かないことがほとんどです。
問題演習は欠かせないものですが、そればかりを繰り返していると、ある問題を解くのに必要な部分のみが蓄積され、歪な形の知識を形成してしまいます。そうした状態になると、見えるべきものが見えなくなって、繋がりを欠いた脆弱なものとなってしまいます。
理解が浅ければ、少し複雑な問題になったり、ちょっとだけ見た目が変わった問題になるだけで、途端に解けなくなるという事態に陥ります。
こうした理解度を自分で測るのはとても難しいことであると分かるのではないでしょうか。
とくに数学では問題が解けているかどうかだけではなく、そこから理解度をきちんと測れる指導力のある人に見てもらうことが重要です。