例年、冬休み前は受験間近ということもあって積極的に生徒を募集しているわけではないのですが、今年は高校生からの問い合わせが多くありました。いろいろと話を伺ってみると、通塾のタイミングの難しさや日常学習の進め方の問題点などが浮き彫りになってきました。
こうした内容はずっとブログでも発信しているのですが、なかなか読んでもらえないので、もう少し目につく方法を考えようかなと思います(思っているだけですが笑)。
当塾へ相談にいらっしゃる人の大半は「ある程度時間をかけて勉強をしてきた」という真面目な方々です。
全然勉強してなくて成績が低空飛行です、みたいなタイプは少ないです(そして、実はこちらのタイプの方が変な学習観にそまっておらず、逆に指導しやすいなんていうこともしばしばあります)。
学校で言われたことや塾の先生に言われたことを信じてやってきたものの、マズい方法のせいで事態が悪化する一方というケースを嫌というほど見てきました。
何となく勉強を続けているものの、コレといった手応えがなかったり、モヤモヤが残ってばかりいるような人は、一度自分の勉強を見直してみることが大切だと思います。
アドバイスをもらうにしても、本当にそのアドバイスが有効なものかどうか、よく考えてみて欲しいのです。
転ばぬ先の杖
以前から面談をしていて難しさを感じていることが「このタイミングが通塾のギリギリ」というラインが保護者や生徒本人には見えにくいということがあります。
基本的にはテストの成績が下がってきて平均点をかなり下回ったあたりで塾に相談にいらっしゃる方が多いのですが、はっきり言うとそのタイミングではほぼ手遅れです。
もちろん例外もありますが、高校での勉強は入試まで1年ちょっとの期間でやり直しできるような内容ではありません。
高校1年生の途中くらいであればまだ軌道修正が可能なのですが、高校2年生の後半あたりになると、相当な覚悟がないと厳しいと言わざるを得ません。
そんな無責任なことをいう人もいますが、きちんと高校の数学を勉強してきた人は絶対にそんなことは言わないでしょう。
高校2年生の秋以降、とくに数列やベクトル、微積分あたりの単元に差しかかかったところで「何か数学が分からなくなってきた!」となる人が多いようです。
実際には何となく問題が解けていただけで本当は何も理解できていなかったという人が大半です。
比較的よく見られるのは、「解き方」は覚えているけど、なぜそれが可能なのか、なぜそれを用いるのかといったことがゴッソリと抜け落ちているという特徴です。
そのため、少し問題レベルが上がり、手順が複数に分岐するような問題や、見た目が少し変わった問題になると途端にできなくなってしまうのです。
そのあたりが顕著になってくるのが、上記の数列・ベクトル・微積分あたりの問題であるということかもしれません。
いずれにしても、生徒本人の理解度を測るためには、適切な問いを適切なタイミングで逐一やっていくことが大切なのです。
そこを生徒本人や保護者の方だけでカバーするのは難しいですし、指導力の低い講師に当たってしまうと放置されてしまいます。
そうして、リカバリできるタイミングを逃してしまい、取り返しのつかない事態となってしまう人が増えてきています。
このような事態を避けるためには、転ばぬ先の杖として、高校入学時から塾へ通うというのも1つの選択肢として持ってもらいたいところです。
問題演習ばかりで何も理解していない
一方で、塾に通いながら毎日頑張って勉強してきたのに、ある時から全然できなくなったという人もいます。
最近は、こんな感じで他塾から転塾を希望する生徒や他塾と併用したいという生徒が増えてきています。
少子化の中、あまり指導力がないにもかかわらず、表面的に聞こえの良い言葉を並べて高校生の指導を行う粗悪な塾が増えてきているように思います。
ここ5、6年で特に気になっているのが演習中心のスタイルで勉強する人(あるいは塾)が増えているという点です。
演習そのものは数学において欠かせない重要なものなのですが、演習のタイミングであったり、問題の質やレベルであったりを全く考慮せず、ただひらすら問題集を繰り返している人が増えてきています。
ネット上でも「インプットよりアウトプットを重視しましょう」などという適当なアドバイスが見られます。
個人的に、数学の勉強においてインプットやアウトプットという言葉が出てきたらその時点で聞くのをやめてOKと言いたくなるレベルです。
あるいは、どの問題集を使って勉強すればよいかとか、何周すれば良いかとか、出てくるのは問題集の話ばかりで、肝心の数学そのものの話題がほとんどないということです。
当塾の記事も、オススメの問題集の記事や入試や模試の結果などの情報ばかりで、数学の話題になると途端にアクセスが減ります。何でや!笑
学習者も「あまり考えずにただやるだけで成果が出るもの」を期待しているところがあるのではないかと思います。
問題集も大事ですが、肝心の数学に関する内容については、教科書やそれに類似した書籍でなければ体系的な理解が得られないでしょう。
しかし、教科書は独学用には設計されておらず、教科書に類似した書籍はほぼ絶滅してしまいました。
そうすると学校の授業くらいでしか体系的な説明を受けられる場所がなくなってしまいます。
ところが、その学校も問題演習が中心となってきており、数学の内容については「教科書を読んでおけ」で終わってしまっている学校もかなりあるようです。
こうなると、生徒はいったいどこでまともな説明を受ければいいのかという話になってきます。
もちろん、YouTube動画などによる解説も増えてきたので、そうしたものを利用する手もありますが、動画に関しては玉石混交の状態であるためちゃんとしたものを見つけるのが大変です。
いずれにしても、問題集をやるだけでは理解不足な部分がたくさん残ってしまいます。
問題集をやる前に知っておくべきこと、問題を通して身につけるべきこと、そうした内容をちゃんと指導できる指導者が少なくなってきているように感じるので、まずは信頼できる指導者に出会う(運任せですが)か見つけることが大切となります。
以下では、そうした理解不足から生じる代表的な例を見ておきたいと思います。
違うものを同じものと見てしまう例
以前、高校2年生の授業で扱った積分の問題です。
\begin{align*}
\int_{a}^{x}f(t)\,dt=x^2-3x+2
\end{align*}
実際にこの問題を解いてもらってあれこれと質問してみると、 $\displaystyle \frac{d}{dx}\int_{a}^{x} f(t)\,dt=f(x)$ のような公式を記号的に覚えていて、$\displaystyle \int_{a}^{x}f(t)\,dt$ の形が出てきたらとりあえず微分するくらいの感じで問題を解きまくっている人が非常に多いのが現実です。
そして、$\displaystyle \int_{-1}^{x}f(t)\,dt=x^2+5x+a$ だとか、ちょっと捻った $\displaystyle \int_{x}^{2}f(t)\,dt=x^3-3x^2+6x-a$ あたりをやって「ああ、そうか、ひっくり返してマイナスか」とか言いつつ類題をいくつかやってよしできた、となる人がほとんどです。
そして、実際の試験などでは、次のような問題が出題されるわけです。
\begin{align*}
\int_{a}^{2x-1}f(t)\,dt=x^2-2x
\end{align*}
そして、よく理解していないので
などとやり始めるのです。
もちろん、教科書には
\begin{align*}
\frac{d}{dx}\int_a^xf(t)\,dx&=\frac{d}{dx}\left[F(t)\right]_a^x\\
&=\frac{d}{dx}\{F(x)-F(a)\}\\
&=f(x)
\end{align*}
くらいのことは書いてありますが、なんとなく眺めておしまい・何となく説明を聞いておしまいという人が多いのではないかと思います。
中には、教科書も開かない・説明もされないという人もそこそこいます。これでは、何も理解していないと言われても仕方ないでしょう。
問題を解けてはいるものの肝心なことはほとんど分かっていないというとても奇妙な状態です。
そして、実際にこうした状況に陥っている高校生がものすごく増えているのです。
実際に、手を動かしてあれこれ考えている人であれば
\begin{align*}
\frac{d}{dx}\int_a^{2x-1}f(t)\,dx&=\frac{d}{dx}\left[F(t)\right]_a^{2x-1}\\
&=\frac{d}{dx}\{F(2x-1)-F(a)\}
\end{align*}
となって、これはいけないぞ!みたいなことにすぐに気づきます。
こんな感じで、どれだけ問題集の数をこなしても深まらない部分というのが残るのです。
やってもやってもなかなか成績が伸びなかったり、スッキリしないという人は、こんな感じの勉強になっていないかよく反省してみて欲しいなと思います。
同じものが別々に見えてしまう例
もう1つの例は、高校2年生のベクトルのところで質問されたときの話です。
いわゆる直線のベクトル方程式について「たくさん公式があって覚えられない」という生徒がいました。
その生徒の持っている問題集には、いくつかの問題がありそれぞれに以下のようなことがポイントとして書いてありました。
(1) 直線のベクトル方程式
\begin{align*}
\vec{p}=\vec{a}+t\vec{u}
\end{align*}
(2)点 $\mathrm{A}(\vec{a})$ を通り、$\vec{b}$ に平行な直線のベクトル方程式
\begin{align*}
\vec{p}=\vec{a}+t\vec{b}
\end{align*}
(3) 2点 $\mathrm{A}(\vec{a})$、$\mathrm{B}(\vec{b})$ を通る直線のベクトル方程式①
\begin{align*}
\vec{p}=(1-t)\vec{a}+t\vec{b}
\end{align*}
(4) 2点 $\mathrm{A}(\vec{a})$、$\mathrm{B}(\vec{b})$ を通る直線のベクトル方程式②
\begin{align*}
\vec{p}=s\vec{a}+t\vec{b}\quad (s+t=1)
\end{align*}
その生徒は、こららを1つ1つ覚えようとしていたわけです。
こんなものは覚えるものではなく図を描いて考えたら当たり前のことであると説明して、きちんと繋がったようです。
そもそもの話として、直線のベクトル方程式は点 $\mathrm{P}$ が直線 $\mathrm{AB}$ を動くという話から考えればすぐに上記のいろいろな式が導かれてきます。
図において、$\overrightarrow{\mathrm{AB}}$ と $\overrightarrow{\mathrm{AP}}$ の間には
$$\overrightarrow{\mathrm{AP}}=t\overrightarrow{\mathrm{AB}}$$
が成り立つことが直観的にも分かります。あるいは、$\mathrm{AB//AP}$(当たり前のこと)からスタートしても、$\overrightarrow{\mathrm{AP}}=t\overrightarrow{\mathrm{AB}}$ となります。
いずれにしても、このあたりを出発点として考えていきましょう。
そして、次に原点を $\mathrm{O}$ として上記の関係式を $\overrightarrow{\mathrm{OP}}$ についての等式に変形してみましょう。
まずは、
\begin{align*}
&\overrightarrow{\mathrm{AP}}=t\overrightarrow{\mathrm{AB}}\\
\Longleftrightarrow\ &\overrightarrow{\mathrm{OP}}-\overrightarrow{\mathrm{OA}}=t\overrightarrow{\mathrm{AB}}\\
\Longleftrightarrow\ &\overrightarrow{\mathrm{OP}}=\overrightarrow{\mathrm{OA}}+t\overrightarrow{\mathrm{AB}}
\end{align*}
といった変形が可能です。また、$\overrightarrow{\mathrm{AB}}$ の方も書き換えていくと
\begin{align*}
&\overrightarrow{\mathrm{OP}}=\overrightarrow{\mathrm{OA}}+t\overrightarrow{\mathrm{AB}}\\
\Longleftrightarrow\ &\overrightarrow{\mathrm{OP}}=\overrightarrow{\mathrm{OA}}+t(\overrightarrow{\mathrm{OB}}-\overrightarrow{\mathrm{OA}})\\
\Longleftrightarrow\ &\overrightarrow{\mathrm{OP}}=(1-t)\overrightarrow{\mathrm{OA}}+t\overrightarrow{\mathrm{OB}}
\end{align*}
という形が得られます。これはどこかで見たような形をしています。いわゆる、内分・外分を考える際に登場したものです。
実際に、$0\leqq t\leqq 1$と制限を与えると点 $\mathrm{P}$ は線分 $\mathrm{AB}$ の内分点となります。そのため、この制限を与えた
$$\overrightarrow{\mathrm{OP}}=(1-t)\overrightarrow{\mathrm{OA}}+t\overrightarrow{\mathrm{OB}}\quad(0\leqq t\leqq 1)$$
は線分 $\mathrm{AB}$ を表すベクトル方程式となります。
$0\leqq t\leqq 1$ という制限を外せば、外分点も含めることになるので、上図のように $\mathrm{P}$ は直線 $\mathrm{AB}$ 上を動く点となります。
さらに、$\overrightarrow{\mathrm{OP}}=(1-t)\overrightarrow{\mathrm{OA}}+t\overrightarrow{\mathrm{OB}}$ において、$1-t=s$ とすると、$s+t=1$ であり
$$\overrightarrow{\mathrm{OP}}=(1-t)\overrightarrow{\mathrm{OA}}+t\overrightarrow{\mathrm{OB}}\quad(s+t=1)$$
と書き直すことが可能です。また、$\overrightarrow{\mathrm{OP}}=\vec{p}$ と表記を変えれば、最初に登場した公式たちと同じものになります。
大事なことは、これらはバラバラな公式ではなく表現の仕方を変えただけの同じものであるということです。
理解が浅い生徒は、こうした繋がりが分かっておらず、別々のものに見えてしまっていることが多いです。
さらにもう1つ
もう1つ、気をつけておきたい例を挙げておきたいと思います。
これは以前、新高校1年生準備講座で扱った問題です。
このような問題に対して、まずは簡単な素数である、$2$、$3$、$5$、$7$ あたりから考えてみる人が多いと思います。
素因数分解の模範解答では、しばしば小さい素数から割っていくものが多いため、知らず知らずのうちのその方法を無意識に採用している人がいます。
しかし最初はそれで構いません。
力技でもいいので、できることを徹底的にやってみるのです。
実は $97$ まで確かめてみると、素因数分解できることに気づきます。
$$9991=97\times 103$$
となります。なかなか遠い道のりですが工夫を思いつかなければ、泥臭い方法でもやってみることが大切なのです。
ところが、実際には10個ほど試してみて、手が止まってしまう人がほとんどです。ああ、もったいない。
一方で、「$9991$ だから、まあだいたい $10000$ だし、$100\times 100$ あたりから考えてみるか〜」みたいな人もいるでしょう。
私はこのタイプで「とりあえず100に近い素数で割れるかどうかやってみるか〜」と考えて、比較的すぐに因数分解できました。
もっと進めていくと、「$9991=10000-9$ だから $(100-3)(100+3)$ で、あれ?できたぞ!」となる人もいるでしょう。
これは非常にスッキリとした、いわゆるエレガントな解答です。問題作成者もこれをやらせたいんだろうなと思います。
大事なことは、泥臭い方法やエレガントな方法も含めて、問題に対するアプローチは1つではないということを意識することです。
問題が解けたらそれでおしまい、というのは非常にもったいないなと思います。
あるいは、解けなかったら解答を見て真似しておしまいというのも同様ですね。
常にもっと良い方法はないだろうかと考えて別のアプローチを検討してみることが大切です。
こうした習慣を持っていないと「Aに対してはBする」ばかりが積み上がって、「AなんだけどBは使えない」状況に対して何もできなくなってしまいます。
もっと酷くなると「Aに対してはBできる」と「Aに対してはCできる」というものが同じ状況であることが認識できなくなっている人もいます。
何でもかんでも1対1に対応させてしまうのは悪手でしかありません。
まとめ
とうわけで、知らず知らずのうちに数学ができなくなってしまう勉強スタイルに陥っている人がかなりいます。
指導をしていても、浅いところで終わらせてしまう人が多く、「もう少し踏み込んで考えたら面白いのになあ」と歯痒い思いをすることがよくあります。
- 同じものは何か
- 違うものは何か
- 本当にそれで正しいか
- もっと良い方法ないか
こうしたことを常に意識して勉強することが大切です。そして、いちばん大切なことはきちんとした指導者に正しく指導してもらうということに尽きるなあということです。
定期的にコラムでは中高生の学力状況を記録していますが、悪化の一途を辿っています。
上位の進学校においても、理解不足の学生が目立つようになってきました。
これは高校の指導力が低いというわけではなく、それ以前からおかしな勉強を繰り返していることが大きな原因です。
とくに高校入試における点数を取らせるための指導は大きな害悪となっています。
入ってしまえば何とかなると考える人もいますが、何とかなることはほぼありません。
まずは、きちんとした学力を身につけること、そのためには誤魔化さない正攻法で勉強することが大切ではないかと思います。
いずれにしても、今年度の中3生の模試結果などを見ていると、学力の崩壊はすでに始まっていることを実感します。
より一層、危機感をもって指導にあたりたいと思います。というわけで、今回はここまでとしておきます。