というわけで、高校では定期考査が実施される時期となりました。
毎年このくらいの時期に、高校1年生の講義では絶対値を含む方程式や不等式を扱います。
そして、この単元が、今後の数学と上手く付き合っていけるかどうかの最初の分水嶺のようになっているように思います。それだけに、指導の際には生徒がどのように考えているのかを注意深く観察する必要があります。
なお、講義の方は、そういう事情からどうしても熱がこもって暑苦しい感じになってしまいます(笑)
去年も同じくらいの時期に、アレコレ言っていました。
塾長休校期間の対応が学校ごとで異なっていたので例年以上に進度がバラバラな感じですが、塾の方は安定のスローペースで進んでいます(笑)どうも世の中には「とにかく速く進める派」が多いようですが、私はどちらかというと「慎重に[…]
教科書ではどうなっているか
毎年、おかしなことをやる生徒が続出するので教科書での記述を確認してみました。手元にある教科書は東書と数研出版のものがありますが、どちらも似たような感じになっています。ここでは、東書版の説明を引用します。
<以下引用>
・・・、実数 $x$ の絶対値 $|x|$ は、数直線上で原点から実数 $x$ に対応する点までの距離を表す。
したがって、$a>0$ のとき、次のことが成り立つ。
$|x|<a$ の解は $-a<x<a$
$|x|>a$ の解は $x<-a$,$a<x$
上のことを用いて、次のような方程式や不等式を解いてみよう。
<引用終わり>
なお、枠囲みのところには数直線を用いて、$|x|<a$ と $|x|>a$ の解の範囲が図示されています。また、絶対値そのものについては、少し前の単元で扱うので、軽くおさらいという感じで導入されています。
記述自体には何ら問題はありませんが、実際の高校生はこれをどう読んでいるのか(あるいは教わるのか)が問題です。
生徒はどう見ているのか
指導している感じでは、半数以上の生徒が上記のような記述があった場合に「枠内の内容」のみを見て考えようとします。
つまり、絶対値を含む方程式や不等式では
\begin{align*}
&|x|=a \Longleftrightarrow x=\pm a\\
&|x|<a \Longleftrightarrow -a<x<a\\
&|x|>a \Longleftrightarrow x<-a,\ a<x
\end{align*}
のように考えてしまっている人が多いのです。そのため、$|x|=-3$ という問題に対して
$$x=\pm 3$$
などと出鱈目なことを平気で書いてしまいます。実際、この等式を満たすような実数 $x$ は存在しません。
いろいろと $x$ に入れてみればわかります。
枠内に書いてある内容は「$a>0$ のとき」という限定的な状況でしか成り立たないものですが、それが一般的にも成り立つものだと無意識に考えていたりするので困ります。
厳しい状況にある生徒になると「$|x|=a$ という方程式の解は $x=\pm a$ である」ということを覚えて、それを $|x|=-3$ にも適用すればいいと考えているわけです。
これって数学的には何も考えていないに等しいわけですが、本人は「ちゃんと考えた」と思ってたりするので厄介です。そして、このように「解法を覚えて適用する」ことが数学の勉強であると勘違いしている生徒がどんどん増えているように思います。
なので、この絶対値を含む方程式や不等式のところを、自信を持って考えられるようになることが最初の関門になると考えています。
こういう部分を曖昧にしたまま先へ進んでいくと、数学難民となってしまうでしょう。
まずは、自分がどこまでを理解しているかの確認をやってもらいたいです。そのためには、$|x|=a$、$|x|>a$、$|x|<a$ だけではなく
- $|x|\geqq a$
- $|x|\leqq a$
- $|x|>|a|$
などを、具体例を作りながらじっくりと考えてみるといいでしょう。